今回は台湾最年少でデジタル担当として入閣し、コロナ禍でマスクの在庫管理などを通じて台湾でのコロナ封じ込めに大きく貢献した、オードリー・タン氏の『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』について取り上げていきます。
この本は
・今後のデジタルと人間の関係性
・AIに仕事を奪われてしまうの?と思っている方
・年寄りはデジタルに置いて行かれてしまうと考えている方
そんな方々にぜひ読んでいただきたい良書です。
閣僚として幅広くデジタルにこだわらず、地方創生なども触れているので、地域行政や教育などに関わる方も読んで損はしないと思います。
オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る
『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』を読む前のイメージ
この作品を読む前、オードリー・タン氏のことは
- 台湾で若くして入閣したエリート
- デジタル・AI分野にめっぽう強い
- 日本に何度か言及した姿をテレビで見かけたことがある
という曖昧な認識しかなく、前知識や先入観なく素直なままで読むことが出来ました。
そしてタイトルにもあるAIについての認識も
- 今後AIに仕事を奪われてしまうのでは?という思いは持っていた
- 技術の発展に付いてこられない人(高齢者など)は、付いてこようとしない人も悪い
- どんどん技術発展させていくべき
という積極的なAIの技術革新を望み、付いてこられない人は切って捨てても仕方がない、というような認識を持っていました。
本書を読み終えての感想、要約
抜群に面白かったです
AI開発云々だとか、技術的な話ではありません。
それ以前のAIに対する考え方、付き合い方、利用法など幅広く触れられています。
まずはざっと、本書を読み終えての感想を箇条書きします
- AIに仕事は奪われない
- AIと人間の関係は「ドラえもんとのび太の関係」
- 日本と台湾の国民性
- 若者と高齢者のデジタル分野での協力
本書はデジタル一辺倒に終始することなく、タン氏の思考や台湾での政策実施の内容に触れ、地方教育格差是正や台湾の国民性など、実に広くて深い知見のもとに書き綴られています。
AIに仕事は奪われない
よくAIなどの技術革新が進んでいくと、「人間の仕事が奪われてしまう」と危惧する声が聞かれます。たしかにタン氏も本書の中で「銀行の融資審査や単純作業などはAIが代行できる」と述べていますが、その一方「責任のある仕事は人間しか出来ない」とも述べています。
上記で述べたような「銀行の融資審査」の場合、融資を申し込んできた人物の過去の融資履歴を参照し、返済に滞りがないか、過去の融資金額と比べて今回の融資額に無理はないかなどはAIで判断は可能であり、実際台湾の銀行での例も掲載されています。
AI技術の発展により、単純な作業はAIに任せ、人間はよりクリエイティブで責任ある仕事に取り組めるということです。
AIは過去の事例を学ばせて、復習することは可能ですが、未経験のことについてはAIに仕事はできません。そのため、AIに学習させるための準備段階や、完了後の最終チェック、責任の所在は人間が担うのです。
AIと人間の関係は「ドラえもんとのび太」
本書を読んでいて一番納得した節なんですが、タン氏はAIと人間の関係を誰もが知る「ドラえもんとのび太」に例えています。
のび太は怠惰で勉強も苦手、宿題やるのもめんどうだなぁ、そうだ!ドラえもん道具出してよ!なんてのがお決まりの流れです。
この意思決定はのび太自身が下し、ドラえもんは自発的に道具を出さず、毎回のび太の行動や思い付き、道具を出してくれという希望に応えて、道具を出してくれています。
この関係がまさにAIと人間の関係なのです。
人間であるのび太が方向性を定め、ロボットであるドラえもんがそれに見合う道具を出す。登山をしたいから道具を出してもらったとき、その道具だけが山に登るわけではありません。
道具の助けを得て人間が山に登るのです。物事の方向性を人間が決め、それをAIに補助してもらうのです。
この方向性をAIが決めてしまう様では、まさに”機械に使われている”状態と言えます。
日本と台湾の国民性
日本では新たな技術や取り組みは、大企業が実践してから中小企業に降りてくるイメージですが、台湾は中小企業が新たな技術や取り組みに飛び付き、社会に浸透していきます。
なぜなら、人手不足や改革を常に必要としているのはまさに”中小企業だから”であり、政治がやってくれないなら、自分たちがやってやる!という国民性が、イノベーションを増幅させているのです。
スピードとパワーを併せ持った台湾の国民性が、これを可能としています。
「地方創生」の名のもと、地方在住による教育や機会の損失を防ぐため、地方こそ優先的に5Gなどの通信網を整備し、都心部との格差を是正しているのです。
人間は自然の中での休息を求めるのに、その自然の中では通信網が使えないのでは、”もしものとき”に役に立ちません。
そのため、地方こそ革新が必要なのです。地方を変えてこそ国は発展する。
この本をおすすめする人
この本は、AIと人間の共生社会を目指し、その将来を考察するためにはとても有益で、気づきを与えてくれるものだと思います。
しかしながら、AIについての目新しい情報を求めるような方には不向きな本です。
オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る